最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)633号 判決 1965年2月23日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人溝越清一郎の上告理由第一点について。
所論は、原判決には採証法則を誤るか、そうでなければ経験則を無視した違法があるというが、原判決が丙一号証の「宅地賃貸借契約証」とある文字そのものに拘泥して本件契約を賃貸借であると認定したとの所論は、原判文を正解しないで独自の所見を述べるにすぎず、その余の論旨は、ひつきよう、原審の専権たる証拠の取捨判断、事実の認定について異論を唱えるに帰着し、採用のかぎりでない。
なお、原判決が判示認定の事実関係のもとで、上告会社と被上告人安斉との間に昭和二六年四月一日本件宅地のうち原判示図面朱線表示の部分につき賃貸関係を同日より昭和三六年四月三〇日までとし期間満了の際なお引続き賃貸するかどうかは双方協議のうえ定める約定で建物所有を目的とする賃貸借契約が成立したと判断したことは、正当として肯認できるところであり、右契約にあたつて賃料は当分無料とするが原判示のごとく当事者ならびに保証人において追つて協議してその額を定める約定が成立した以上、右契約の成立をもつて賃貸借契約の成立と判断した点に経験則違反等の違法はなく、これを上告人主張のように使用貸借契約の成立と判定しなかつたからといつて所論違法はないから、論旨はすべて採用できない。
同第二点について。
所論は、本件賃貸について更新拒絶ないし解約申入を主張して、原判決の審理不尽、理由不備または事実認定の過誤をいうが、右は原審で主張なく従つて認定判断を経ないことをもつて原判決を非難するものであつて、上告理由として採用のかぎりでない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)
《当事者》
上告人 合資会社協同社
右代表者無限責任社員 飯野定次郎
右訴訟代理人弁護士 溝越清一郎
被上告人 武田あさを
被上告人 安斉市五郎